栃木県那須町 スキー場雪崩事故について


 なんとも痛ましい雪崩事故になってしまった。詳細はまだ関係機関によって調査中ではあるが、現時点までに伝えられた情報からいくつか考察したい。


 雪崩が発生するまでに、関東方面での天候の崩れはあらかじめ予報されていたし、各地でこの時期では多いと言えるほどの降雪・積雪があったことも報道されていた。そのため今回の雪崩発生の一報も、発生しうる状況下での事故であると最初は認識した。
 違和感を覚えたのはその後の報道で、雪崩発生時に引率の教員が「伏せろ」と叫んでいたとの情報に触れたときであった。冬山の経験が十分あり、常に雪崩を警戒していれば「伏せろ」とは絶対に言わない。

 また、営業期間が終了してから数日経過したスキー場内でのラッセル訓練というのも、経験があれば絶対にやらない。スキー場内というのはある意味もっとも雪崩が発生しやすい条件がそろっている。営業中は雪を固めたり、人為的に雪崩を発生させたりしているため今回のような雪崩が発生しないのである。スキー場内だから安全という判断があったのだとしたら、きわめて重大な問題である。


 もともと計画していた登山を中止したところまではよかったが、そこからいきなりラッセル訓練というのはどのような過程を経て決定されたのであろうか。より安全な場所で各種の弱層テストを行うとか、ルートファインディングの説明をしてもよかったのではないか。その説明をするだけでも時間が足りないくらいであったはずだ。


 二度とこのような事故が発生しないように、全体のシステムを見直すことから取り組んで欲しいところだ。亡くなった方々と残された家族のことを思うと、悲しい気持ちになる。


 メディアが「襲ってくる」という言葉を使うのを、よく耳にする。地震、隕石、それに失恋は、何の前触れもなく襲ってくるかもしれない。しかし、雪崩には普通、明白な兆候がある。また、雪崩は「襲ってくる」ことはない。特定の時間、特定の場所で、特定の理由により発生するのだ。非常に重要なことなので、もう一度言おう。雪崩事故の90%は、犠牲者または犠牲者のパーティの誰かが引き金となって起こる。

 雪崩リスクマネジメント p15


 僕の講演では毎回人々はレスキューのことばかりを聞きたがる。雪崩に巻き込まれたらどうするのですか? 僕は、もうそんな質問に抵抗をしない。講演の最初の方でさっさとレスキューについて語り、片付けてしまう。先に話してしまえば、一度雪崩に巻き込まれてしまうと残念ながらできることはあまりないこと。いずれにせよレスキュー活動があまり役に立ちはしないことに、皆、気がつくはずだからね。そうすれば大切なことを聞き逃すことはない。最良の雪崩レスキューは、レスキュー自体を必要としないということだ。
 雪崩リスクマネジメント p227


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