「ゴッドファーザー」マリオ・プーヅォ著

 映画のゴッドファーザーを見たことがある人でも、原作の小説を読んだことがある人は少ないと思います。
もちろん、映画の出来はとても良いわけでありますが、映像だけではどうしても伝えきれない部分や、時間の制限によってカットされる部分というのは非常に多いのです。
また、細かい心理描写や物事の背景を映像だけで表現することは、事実上不可能だということもあります。。


たとえば、冒頭の結婚式での出来事を例にあげます。
ファミリーの長女の結婚式には多数の来賓があり、その車のナンバーFBIの人間が控えていきます。それを見た長男のソニーが車に近づき、FBIの車につばを吐きかけます。
 映画ではこのソニーの行動に対して父親のドン・コルレオーネがどう考えているかは描かれていません。しかし、原作ではこのエピソードについての詳細な説明がなされます。
実のところ、この説明をするがために、このエピソードが展開されているにすぎないと考えるべきなのです。

玄関口の階段にもどり、彼は父親に報告した。「FBIですよ。車のナンバーを全部控えているんだ。薄汚い野郎どもめ」
 ドン・コルレオーネには、そんなことは初めからわかっていた。だからこそ前もって、身近な友人には他人の車でやって来るよう注意してあったのだ。だが、息子の怒りにまかせた馬鹿げた行動をほめるつもりはないが、ある意味ではそれは都合がよいのだった。ソニーのそんな様子を見れば、闖入者たちも自分たちの出現が予期されたものではなかったと思うにちがいない。それで、ドン・コルレオーネは平然としているのだった。彼はもうずっと昔に、人生には耐えねばならない侮辱を受ける場合があるが、目をしっかり開いてさえいれば、いつの日か、もっとも弱き者がもっとも強き者に復讐することができるという知識を会得していた。友人すべてが称える謙虚な心を彼が失わずにすんでいるのは、まさにこの知識のおかげなのだった。


ゴッドファーザー(上)」一ノ瀬直二訳 p21 より引用


 あともう一つの例として、ドンの地位が息子のマイケルに引き継がれる場面での描写。

 テッシオは、マイケルに対してもっと高い評価を与えていた。この若者の中に、何かほかのものを感じとっていたからだ。彼はその力を巧妙に隠し、細心の注意をもってその本当の強さを世間の注視からそらしている、というのもドンの教え――友はこちらの長所を過小評価し、敵は短所を過大評価するという教えを奉じている男だと感じていた。


ゴッドファーザー(下)」一ノ瀬直二訳 p336 より引用


 これらの細かい描写は、映画には出てきません。そして、映画には出てこない描写こそがゴッドファーザーのエッセンスといっていい重要な部分なのです。
米国のある経営者が原作のゴッドファーザーを称して「最高のビジネスマニュアルだ」と言ったのもうなずけます。
まだ原作を読んでいない方は、是非読んでみてください。


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