予備を買うことの重要性


 すい臓がんの手術からそろそろ2ヶ月となるが、ようやく夜もまともに眠れるようになってきた。ただし、抗がん剤の治療が始まっているためそちらの副作用のことを考えるとまだまだ先は長い。
 手術前には自分で自分の遺品整理といった具合にいろいろなものを整理・処分した。その中に気に入っている衣服類があったのだが、サイズが合うものについては甥っ子にゆずったのである。それらは使い古しではなくて、ほとんどが米国のアマゾンから予備として購入したものであった。またそのほとんどが、現在ではメーカーが製造を中止した製品である。


 ある製品をずっと変わらない品質で作り続けるメーカーもあれば、せっかくのいい製品を作らなくなってしまうメーカーもある。そのためいい製品に出会ったときには、耐久性を考慮した上で必要な予備を買っておくことにしている。また、製品によっては同時に複数のものを使用することもあり、より多くの予備を買うことさえある。
 その例として「フリースマフラー」がある。寒い季節に出かける場合、特に自転車で移動する場合などは必ずマフラーをするのであるが、アウタージャケットのえりの中にたくし込めるサイズ・厚みのものを使っている。肌触りの良さからフリース素材のものを使うのであるが、メーカーによって肌触りがまったく違う。最初にそのタイプのものを使ったのが、モンベルのおまけ製品としてもらったものであった。使い始めた当初はいい製品だと思ったので予備を買おうかと思ったが、派手な色のものしか在庫がなかった。しかたなく他のメーカーで同じようなものを探したところ、ミズノから同サイズのものが出ていた。しかも、ミズノ製のほうが肌触りが段違いにいい。素材を提供しているのがポーラテック社で毛玉もできにくい。一方、モンベルのマフラーはすぐに毛玉ができてしまい、耐久性においてもミズノより劣っていた。

 ミズノ製のフリースマフラーはすぐに予備を購入しておいた。現在では案の定製造中止となっており、後継製品も見あたらない状態である。
 余計なものを買いすぎるのは当然問題であるが、必要不可欠なほど手放せなくなったものが使えなくなったときに予備が手元にないことも同じく問題であると思うのである。


 複数の任務で役に立つ道具もある。たとえば、<ガーバー>のマルチツールには、ナイフ、スクリュードライバー、ハサミ、缶切りなどがついていて便利だ。以前のSEALチーム5時代には、各自ひとつしか支給されなかった。
 ライフルのスコープもひとつしか支給されない。固定刃のナイフも1本。防弾プレートも1セットだけ。だから、SEAL時代には複数のバッグを引っかき回して道具を見つけ出し、新たな任務用のバッグに入れ直さないといけなかった。手間だし、効率も悪いが、カネを出すのはアメリカ政府だ。慣れるしかなかった。
 だが、DEVGRUはちがった。
 その日しばらく経ってから、チーム・リーダーが念のためにおれの様子を見にきて、色分けされたバッグの装備に目を留めた。<ガーバー>のマルチツールほか、ほとんどの任務で使いそうな装備は別のバッグに入れて準備していると、リーダーがいった。
「補給係に行って、マルチツールをバッグの数だけもらってこい」
 おれはぽかんと見ていた。
「4つもらえるんですか?」
「ああ、4つにわけてんだろ。バッグごとに<ガーバー>が要るだろうが」
 リーダーはこともなげにいった。


  ”アメリカ最強の特殊部隊が「国家の敵」を倒すまで” マーク・オーウェン


今日の動画
  group_inou / EYE
   https://www.youtube.com/watch?v=WSFeje8-4Vc