ウクライナ侵攻でのハイブリッド戦

 ロシアによるウクライナ侵攻では、地上軍による物理的侵略だけでなくハイブリッド戦も同時展開されている。NHKの報道ではハイブリッド戦という言葉自体をほぼ出していないが、事実上全世界を巻き込んでのハイブリッド戦が行われていると考えるべきであろう。


 ハイブリッド戦に関する書籍はここ数年で何冊か出版されているが、やはり1999年(邦訳は2001年)に出版された「超限戦」が最初期のものと見なされる。しかし、今回の戦争後にあらためて江畑謙介氏の著作を読み直してみると、1997年の時点でハイブリッド戦を正しく予見している記述を見つけた。以下に引用する。


あらゆる面で曖昧になる境界
 これまでに述べてきたようにインフォメーション・ウォーには「前線」が存在しない。あらゆる場所、階層が攻撃対象となる。在来型の戦争をチェスとするなら、インフォメーション・ウォーは日本の碁にたとえる人もいる。前線が存在せず、戦いは面のあらゆる局面で行われる。
 軍事作戦においても、インフォメーション・ウォーでは従来の「戦域」とか「戦場」といった概念は通用しないだろう。米国が一九九三年九月に設定した、冷戦後の戦略として二つの地域にほぼ同時に発生する大規模地域紛争に、米本土から米軍を派遣して対応するという概念も、インフォメーション・ウォーでは通用しない。地域紛争はその「地域」の前線だけに限定されず、後方にある米軍が展開する国、相手の国内、米本土内部、前線米軍、その間を結ぶ補給/通信回路、輸送ルートなど、あらゆるフェーズが攻撃と防御の対象となる。したがってインフォメーション・ウォーでは軍、民間の区別はない。


江畑謙介 「インフォメーション・ウォー 狙われる情報インフラ」(1997年) p148

 

 

 江畑謙介氏の著作はその多くが200円程度の値付けで売られているが、いま読んでも古さを感じさせない。ぜひおすすめしたい。

 

 

 世界各地に核による絶滅の不安がみられだすと、それにつけ入り、利用するのが、ソ連の政策だった。そうして生まれたものの一つが、西側世界のいわゆる”平和運動”で、ソ連が裏で糸をひき、大半の費用を出しており、レーニンのいう「役に立つ愚か者ども」が目いっぱい利用されているが、その中には、非の打ちどころのない立派な人物、ときには著名人すらいた。平和運動は、一九五〇年代に盛んになった。ストックホルム・アピールや世界平和評議会、そしてひそかにモスクワの指令を受け、いわゆる平和基金から十分に資金を仰いでいたその他のいろいろなデモ運動の盛んだった時期である。これらの平和攻勢の主な標的は、アメリカ合衆国だった。

 

第三次世界大戦(上) ジョン・ハケット  p31