本の信頼性
本そのものというよりも著者の信頼性と言うべきか。先週に京都府立図書館へ行ったとき「南方熊楠大事典」をひたすら読んでいたのであるが、これまでに得ていた熊楠に関する知識がけっこう間違っていたことを認識させられた。
たとえば熊楠が 東京大学予備門で同級生だった夏目漱石とは仲がよかったのだろうと思っていたのであるが、たいして接点はなかったようである(正岡子規とは多少接点があった)。また、 東京大学予備門を退学した理由についても、熊楠があまりに頭が良すぎて予備門の勉強がばからしくなって辞めたという認識だったのであるが、実際にはあまり成績は良くなかったらしく、代数の試験で落第点をとったことと、その後体調を崩したことが大きな理由だったようだ。
また、子供の頃に近所の友達の家にあった「和漢三才図会」を何ページも記憶したのち、自宅に帰ってから記憶をもとに書き出していったという逸話についても、記憶だけではなく友達から本を借りて書き写していたようである。熊楠の記憶力についてはサヴァン症候群の一種かと思っていたのであるが、実際のところはそこまでの状況ではなかった模様。アメリカのキム・ピークと同じような能力があったのかと思っていたのであるが、ちょっとがっかりした。
熊楠の数々の逸話については熊楠自身がけっこう演出していたようである。それが広まっていく過程で「熊楠伝説」のようなものが生まれ、それがさらに引用されていくにつれて事実であるとされていったようだ。
●参照日記
http://d.hatena.ne.jp/SASGSG9/20070811
南方熊楠大事典 | |
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熊楠以外でも最近になって認識を改めた事柄がいくつかあった。
まずはナイチンゲールとフクロウの話。クリミア戦争に行ったときにも、かわいがっていたそのフクロウ「アテナ」をポケットに入れていたとの記述があちこちにあるが、実際にはクリミア戦争へ行く直前にアテナは死んでしまったようだ。
次に黒澤明監督作品「蜘蛛巣城」でのクライマックスシーン。三船敏郎に向かって放たれる多数の矢を射ていたのは弓道の達人たちだと何かで読んでからそう思い込んでいたのであるが、関係者のインタビュー番組では大学の弓道部の学生たちが射ていたとのことだった。
ここ数年でSNSなどが大きく普及した結果、事実と異なる話があっという間に広まる傾向が加速していると考えられる。実害がなければまだしも、他人に何らかの損害を与えるようなことになれば問題である。事実であるかどうかを正しく分析・判断していくためにも、歴史学(歴史ものや時代小説ではない)を体系的に学習しておく必要もあるのではないかと認識させられた。
■参照動画
蜘蛛巣城
http://www.dailymotion.com/video/xvizjz_%E8%9C%98%E8%9B%9B%E5%B7%A3%E5%9F%8E_shortfilms
この映画のすごいところは、日本語字幕を見ないことには三船敏郎のセリフがさっぱり聞き取れないことである。