GPSと一望監視方式

警備会社が提供する、GPSによる位置情報サービスについての特集を、NHKでやってました。月々数百円で、GPS端末を持った子供が今どこにいるのかを、携帯電話やパソコンで確認できるというものです。


これを見て頭に浮かんだのが、「パノプティコン=一望監視施設」でした。パノプティコンは、「最大多数の最大幸福」という言葉を残した功利主義者ジェレミーベンサムが考え出した刑務所のことです。この刑務所の形状は、真ん中に看守が詰めるための塔があり、その塔をぐるりとかこむ円周上に建てられた建物に、囚人が収容される独房があるというものです。看守のいる塔からは各独房がすべて見渡せるようになっていますが、囚人からは看守の姿が見えないようになっています。常に監視されていると囚人に意識させることにより、囚人の服従心を作り出します。ここで重要なのは、実際には監視をしていなくても(監視者の姿が見えないため)「見られている」という意識を囚人に持たせ、服従させることができるということです。ポスト構造主義の思想家ミシェル・フーコーは、この状態を「権力の自動化」と表現しました。


冒頭のサービスを利用している親御さんの多くは、子供の身を心配しているのだと思います。しかし、中学生くらいになれば、危険を避けるための知識と行動を訓練によって身につけさせる方がよほど子供の身を守ることにつながると思います。GPSでは犯罪の進行状態を「位置情報」としてトレースすることはできても「防止」することはできないからです。それよりも、監視されていることを常に意識させられることにより、子供の自発性や行動力の健全な発達に悪い影響を与える弊害の方が大きいような気がしました。