「車イスから見た街」

車イスから見た街 (岩波ジュニア新書)
車イスから見た街 (岩波ジュニア新書)村田 稔

岩波書店 1994-06
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おすすめ平均 star
star車イスを利用する人についての理解が深められる本
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 ニュースにあったように、ある私立高校が白血病の女子生徒の受験を断った件。ニュースソースによって、私立高校の言い分と県側の言い分がまるっきり逆になっているところがなんともやりきれないです。
女子生徒は受験を断られたことにショックを受けたとのことですが、病気も含めてなんとか乗り越えて欲しい。


 以上ちょっと抑えて書いてますが、ほんとは怒髪天を衝いてます。ちょうど「車イスから見た街」を読んでいるところだったのですが、その中に似たような話が出てくるからです。人間および社会は、時間の経過によって必ずしも進歩するわけではないことがよく分かりました。
(この本の著者 村田稔氏は、生後一年半でポリオにかかり両足の自由を失いました)

一九五二年秋。
「高校へは入学させてもらえんらしいわ」
「なんで!」
「歩けんから、あかんということらしい」
「ふうーん」
突然、頭をなぐられたようで、全身がこきざみにふるえてきました。
 これが、公立高校からの入学拒否を知らされた瞬間でした。それまで私の身近にあったはずの学校の建物、校庭を走りまわる生徒の集団、通学路の家並みと行きかう人びと、そんなもろもろのなにげない風景が、まるで潮が引くように私からどんどん離れ、遠ざかり、私自身とはなんのゆかりもない遠くの風景と化したのです。
 「差別」。混乱した頭のなかで、なぜかこの二文字だけが鮮明でした。
 それは、これまで私にやさしく接してくれていた学校からの、思いもかけないしうちだったのです。小便をがまんし、のどのかわきに耐えながらの通学は、いったいなんだったのか、そんな思いが頭をよぎりました。
 春秋に富む十五歳の少年の、このときの悲しみを、世の中の人びとのうちの何人の人が心底理解できるでしょうか。


「車イスから見た街」村田稔 p51

 こののち村田さんは別の高校(私立高校)への入学を許可されます。高校へは手でペダルをこぐ形式の三輪車イスで、ときに級友の助けも借りながら通学しました。その後同志社大学法学部を卒業し、6回の挑戦で司法試験に合格、弁護士になったのです。

いままでの街は、車イスにたいする行動の自由をないがしろにしてきたのです。足が動かないのだから行動の自由がないのはあたりまえではないか、と思いこんできたのだとしたら、それはとんでもない考えちがいです。
 行動の自由というのは、人間に等しく与えられているものです。車イスの私も人間ですから、私にも行動の自由があってあたりまえです。行動の自由は、人間ひとりひとりに与えられた権利なのです。車イスだからといってこの権利を否定することは許されません。
 街は、車イスにも行動の自由を保障する責任があるのです。


同  p173