W-ZERO3はキャズムを越えられるか


W-ZERO3、ようやく安定供給に。しかしその真相は・・・
 一時の品薄騒動も落ち着き、あの方々へはどうやら供給が完了したようです。この正月にはヨドバシカメラ梅田店に少なくとも数十台の入荷があったようですが、数日たってもまだ在庫ありの状態。その理由は「あの方々」への供給が完了したからにほかなりません。
あの方々=「イノベーター」と「アーリーアダプター」のことです。


キャズム
 キャズムとはもともと「深い裂け目」「(連続したものの)切れ目」という意味です。
1991年に米国で刊行された「CROSSING THE CHASM」のなかで著者のジェフリー・ムーアは、ハイテク製品が市場に浸透せずに消え去る原因が「キャズムを越えられなかった」ことにあると看破しました。
ハイテク製品やサービスが市場に投入されたとき、まっさきに購入するのが「イノベーター=テクノロジーマニア」。彼らはとにかく新しいものが好き。値段はいくらであろうが関係なし。真っ先に製品を入手し、評価し、メーカーに不具合・改良点を進言しまくります。それだけのスキルを持っていることも多いわけです。しかし、一般の人からは理解されません。価値観が普通の人とは大きく乖離しているからです。
イノベーターとほぼ同時に、またはイノベーターのアドバイスをもとに製品を購入するのが「アーリーアダプター=ビジョナリー」です。彼らもいわゆるハイテク好きなのですが、イノベーターと違うのは、その製品が実際に役に立つかどうかに判断基準を置くところです。ただし、実際に役に立つことを「夢見る」人たちなので、製品が持つ「ポテンシャル」をもとに勝手な夢想を描きがちなところもあります。「これを使えばあんなことやこんなことができる!」とばかりに製品を購入してしまいます。結果失望することもありますが、イノベーターのアドバイスを元に、製品をよりよく使う工夫を重ねていくスキルと根気も持ち合わせています。ブログなどで精力的に関連記事を書いている方々に多いと思われます。

 さて、この「イノベーター」と「アーリーアダプター」のつぎに控えているのがメインストリーム市場です。この市場には「アーリーマジョリティ=価格と品質重視派」「レイトマジョリティ=みんな使ってるから派」がいます。この二つが市場全体の7割近くを占めているため、この人たちに普及しないことには商売になりません。そして、「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」との間に「キャズム」があるのです。


W-ZERO3の現状
 W-ZERO3は間違いなく「イノベーター」全員の手に渡りました。「アーリーアダプター」にもほぼ供給されたと思われます。これで市場全体の16%へ普及したことになります。
このあと「アーリーマジョリティ」が購入し始めるまでにキャズムを越えなければなりませんが、その時に必要な概念が「ホールプロダクト」です。
W-ZERO3を例に取ると、この端末本体はあくまで「コアプロダクト」。キャズム手前までの初期市場に対してはコアプロダクトさえあれば十分普及します。しかし、メインストリーム市場へ至るまでには、
・製品の使い勝手や信頼性
サードパーティから供給される周辺機器
・無償または格安の追加ソフトウェア
・製品の改善とデバッグ
・カスタマサポートの整備
など、サービス全体の使い勝手が、ひとつの製品として機能しなければなりません。これらのサービスは、一般的なケータイ電話においてはすでに整っています(だからこそケータイは大きな市場になっている)
W-ZERO3のような製品を、他の端末と同じ発想で扱うと、結局キャズムを越えることなく終わってしまうことになりかねません。
今はとにかくメインストリーム市場の顧客にも買ってもらえるように、戦略を組み立てる必要があります。ウィルコムのHPは相変わらずですが、シャープのHPはやる気が見られます。顧客を開拓する必要があることを認識しているようです。


■日本でのスマートフォン市場
 1年前のボーダフォン「702NK」。半年前のドコモ「M1000」。まだ3週間しかたっていない「W-ZERO3」。いずれもまだスマートフォン市場と呼べるまでには市場は大きくなっていません。なにしろ相手は日本のケータイ市場なのですから。サービス面ではどう考えても圧倒的な差があります。前記の端末には「サイフ」機能も「GPSナビ」も搭載されていません。買ったときからついていて、難しく考えることなく使えるケータイたちとは太刀打ちできないのです。
アメリカやヨーロッパでスマートフォンが普及した理由は、もともとPDA市場があったことと、それらのユーザーがスマートフォンへ乗り換えたこと。なによりも日本のような高機能「ケータイ市場」が存在しなかったことが大きいと思います。
日本の市場環境を無視してスマートフォンを日本に普及させることは、たいへんな間違いだと思うのです。活路があるとすれば、非常に小さなニッチ市場から普及させ、それをメインストリームへと広げることでしょうか。W-ZERO3はメインストリームに最も近いところまで迫ったとも言えますが、キャズムを理解したマーケティング戦略を用いないと、あっというまに、「あー、一時ブームになったあれね・・」と数ヶ月後には言われてしまうことになりかねませんよ。ウィルコムさん

●参考書籍

キャズム
キャズムジェフリー・ムーア 川又 政治

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