人にとって「非快適な」デザイン

 公共の場所に設けられている設備は、だれもが快適に使えるように設計・デザインされているべきだと考えてしまいがちですが、場合によってはそれが仇となる場合があります。
 具体的な例を挙げると、駅などに設置されている「ベンチ」。これは、電車を待つ人や待ち合わせをしている人が一時的に使用することを目的として設置されています。ところが、改札内ならともかく改札外のベンチなどでは本来の利用者以外の人が長時間そのベンチを占拠してしまう場合があるのです。そのような人たちの使い方は「ベンチに寝る」というものです。ベンチが人の頭からお尻までの長さを有している場合、それは快適な「ベッド」にもなります。そしてそこが快適な寝室として機能してしまい、一人の人間が長時間にわたって占拠するという事態が起きるわけです。
 しかし最近では上記の問題を解決するデザインを施したベンチが多くなってきました。それは、一人分の座面を明確に区切ること。つまり「肘掛け」を設けることです。これによりベンチの設置面積は肘掛けの分大きくなりますが、一人の人間が2,3人分のスペースを占拠してしまうことは困難になります。肘掛けでなくても、一人分のスペースを「突起」によって区切れば同じ効果があります。これによりベンチ本来の「座る」という目的がより明確になり、一人分のパーソナルスペースも確保され、しかも想定外の使用法である「寝る」行為を阻止することが可能になるのです。



■身体的苦痛を与えるベンチ
 さて、さらに「短時間の使用」を目的とするベンチが見られるところもあります。具体例としては、JR大阪駅中央口にある「砂時計」前のベンチです。
この場所は無線LANのアンテナが天井に設置されており、私もM1000やpalmTXでこのアクセスポイントを利用することも多いです。そのときにここのベンチに腰掛けることがあるのですが、10分以上座ることは苦痛となります。なぜならこのベンチの座面が、ただの「パイプ」だからです。座った瞬間から苦痛を感じ、10分も座れば下肢への血流が滞り、足がしびれてきます。利用者の回転率を上げるためには天才的ともいえる設計ですが、本当にそれを意図してデザインしたのかは分かりません。もしそれを意図せずにデザインしたのであれば、最低のデザインですが・・・
同じパイプ状の座面を持つベンチでも、その高さを変えることでより快適に機能させることができます。お尻にすべての体重がかかってしまわないよう、座面を高くすることです。そうすると足の裏とお尻に体重が分散しますので、痛みや下肢のしびれなどは発生しなくなるでしょう。お年寄りにとっても、座るときや立ち上がるときの肉体的な負担が少なくなると思います。


公共スペースの設備というのは、快適さを考えるだけでなく、あらゆる要素を考慮に入れてデザインしないと結果的には本来の利用者が利用できない事態が発生したりします。
ユーザビリティのみを考えるだけでは不十分な面があり、より難しいわけです。しかし、公共施設ではひとつのデザインミスが非常に多くの人に影響を与えますので、十分な考慮と配慮をもって設計にあたって欲しいところです。



●参考文献

生きのびるためのデザイン
479495901Xヴィクター・パパネック 阿部 公正

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