2度目の入院中


 前回の更新時には内臓疾患の病名ははっきりしていなかったが、病名がはっきりしたので公表する。なお、以前の文体はすべて「です・ます調」だったが、今後は基本的に「である調」で記述していく(理由はのちのち書く予定)。


 病名がはっきりしたのが7月初旬。病気そのものについてはともかくとして、それをブログ上に公開するかどうかはこれまでいろいろ迷った。なにしろ病名が膵癌(すい臓がん)だったからである。
 ちょっと調べると分かることだが、あらゆる癌のなかでも膵癌の5年生存率は桁外れに低く、たいていは数年以内、早ければ余命数ヶ月レベルだったりする。私の場合も積極的な延命治療をしなければ(手術や抗がん剤治療などをしなければ)、統計的には6ヶ月から2年くらいで死ぬと言われた。


 人によって死ぬことに対する受け止め方はさまざまだと思う。結婚したばかりだとか、まだ小さい子供がいるとか、世話をしなければならない老親がいるとかであればその衝撃も大きく、精神的なダメージも相当のものになるだろう。私の場合は単身者であるし、親も高齢ながらまだまだ動ける状態にある。よって残していくものに対して深刻さの度合いは比較的小さいといえる。


 自分自身が死ぬことについては日常的にけっこう考えていたため、あまり驚くことなく医師の説明を聞いていた。むしろあまりにもこちらが冷静に聞いていることで、医師に「この人ほんとに分かってるのか?」と思われていないかを心配してしまうくらいだった。
 私がこれまでずっと恐れていたのは事故死であり、オートバイで走行中に事故死する、登山中に岩場から落ちたり、落石が当たって死ぬ可能性がもっとも高いと思っていた。そのような状況では即死から数時間以内までと、かなり短い時間で死んでしまうことになる。そのためふだんから自分が死んでしまうことを結構な頻度で考えていたのである。


 また、20代のはじめ頃によく読んでいた本の影響もあるだろう。まず1987年に乳がんで亡くなった千葉敦子さんの著作。この人は自分が癌であることに対して自己憐憫にひたったりしていない。そんなものにひたったり泣いたりしている時間はないのだと言い切る。自分が同じ立場になってみるとそれがよく理解できた。残された時間が圧倒的に少ないのだ。これまで「いつか読もう」と思って買っていた本や、録画してきたテレビ番組や映画などももはやすべて消化することは不可能である。それに加えて癌関連の本も読んで、今後の治療などに関する情報も得ておかなければならないのでさらに時間がとられていく。


 もう一人影響を受けているのがキューブラ・ロス。死の受容プロセスについてはあくまで理論としては理解していたが、実際自分が当事者になってみると各段階をほとんどすっ飛ばして「受容」段階にあることに驚いた。これは個人差がかなり大きく出てくるのだと思われる。私と同じようにいきなり受容段階だったという人に2010年に乳がんで亡くなった佐野洋子さんがいる。この人の「死ぬ気まんまん」という著作を読むと死生観が私とよく似ていて妙な安心感を抱くのである。ちなみに私が「である調」に文体を変えた理由は、先の著作にチラッと名前が出てくる東海林さだお氏の影響が大きい。東海林氏の漫画は正直笑えないが、エッセーは完全に私の笑いのツボにはまっている。


 さて、そんなこんなで現在も入院したまま術前化学放射線療法というのを受けている。癌治療といえば抗がん剤が必ず登場し、それにはおまけのごとく副作用というのがもれなくついてくる。抗がん剤も弱いのから強いのまでさまざまであるし、副作用も人によって現れ方がさまざまである。現在服用しているティーエスワンというのも人によっては服用して数日で吐き気や嘔吐に見舞われたり、ひどい口内炎になったりするらしいが、私は白血球の数が減ったくらいでほとんど副作用がない。もちろん口内炎にならないように丁寧な歯磨きとコンクールFといううがい液を必ず使うように予防も心がけているが、基本的には体質によってあまり大きな副作用が出ていない模様。
 体がしんどくないため7月はじめに入院してから病院内の散歩を欠かしていない。2次元総歩行距離はすでに70キロメートルに至り、3次元では富士山を1回上り下りしたくらい垂直移動している。休日に見舞いに来てくれた知人や職場の同僚も、私の今の状態を見て病人と思ってくれていないのではないかと妙な点で心配になるくらいなのである。
 これは裏返すと癌の恐ろしさをよく示している。癌であることがわからず、体だけ元気なまま癌が進行していき気づいたときには末期で手の施しようがないということがたいへん多いのだ。がん保険に入ることと、がん検診の受診を可能な範囲で積極的に受けること、これまでになかったような体調不良が続くときは必ず病院へ行きしっかりした検査を受けることをおすすめする。


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