ツアー登山のこわさ

 大雪山系(トムラウシ)での大量遭難事故からすでに1週間が過ぎました。今回の遭難でもっとも問題だと思われるのが、「ツアー登山」そのものだと思います。


■システムに組み込まれるということ
 ここではツアー会社によるツアー企画を、ひとつのシステムとしてとらえたいと思います。

参加者はお金を支払ってこのシステムに組み込まれます。ツアー会社・ガイド・他の参加者によって構成された組織の一員となるわけです。
システムの主体はツアー会社です。ツアー会社は企業ですので、利益を上げることが目的となります。その目的を達成するべくシステム全体が動くため、参加者もいやおうなしにそれに巻き込まれていくのです。


 今回のようなツアー登山の遭難においては、「ツアー会社とガイド」「ガイドと参加者」「参加者と参加者」の3つが複合して、各当事者の心理や行動に大きな影響を与えていたと考えられます。その結果、本来なら避難小屋に停滞すべきところで予定通りにツアーを続け、大量遭難死に結びついてしまったのでしょう。各人の「大人としての行動」が、結果として最悪の事態を招いてしまったわけです。


 避難小屋の数が少ないことが要因の一つだとして、新たに避難小屋を設置しようという動きもあるようです。しかしその避難小屋に宿泊することを前提としたツアーが企画されることになり、状況の改善には結びつかないでしょう。


登山をツアー旅行と同じように考えていることが、ツアー会社側にしても、参加者側にしてももっとも大きな問題です。どっちが悪かったということではなく、両方にそれぞれの悪い部分があったケースだったと思います。

私は今までにたくさんの誤りを犯してきましたが、幸運に救われたことが何回かありました。でも、いつも命を危険にさらしていれば、そのうちに必ず死にます。
 心得ておくべきは、「これは自分にはできる。しかし、これはできない」ということです。「これは自分の限界だ。これ以上は上に行けない。もう少し低いところにいよう」ということを時々刻々心得ていることはクライミングの基礎の一部です。しかし、何回も限界を超えて登っていると、必ず死にます。登山術とは生き残ることで、死ぬことではありません。

・・・・

 私は非常に用心深い男です。「これは自分にはできないな」と感じれば、できるという確信を得られるまで長いこと待ちます。いちかばちかということはしません。


  ラインホルト・メスナー


  「ビヨンド・リスク」p31

低体温症にかかりはじめると、中央のサーモスタットが反応し、熱を四肢から体の芯に引き寄せようとする。そうなると、手足がこわばりはじめる。芯の温度が落ちるにつれて、体は頭からも熱を引き寄せ、血の循環が悪くなって、頭脳が必要とする酸素や糖が得られなくなる。それがほんとうに危険なのは、なにが起きているかという自覚がないことだ。低体温症が真っ先にやるうちのひとつは、自分を救おうとする意志を奪うことだ。ふるえるのもやめ、心配もしなくなる。それどころか、死にかけていても、いっこうに気にならなくなる。脈拍が不規則になり、眠くなって意識がもうろうとし、やがては意識を失う。治すには外部から熱を与えるしかない――火、温かい飲み物、あるいは他人の体で。

 「ファイアウォール」  アンディ・マクナブ p504

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